アイコムから発表になったデジタル小電力コミュニティ無線(以下デジ小)のIC-DRC1を実際にハムフェアで触れて、担当者から説明を受けてきたのでまとめてみます。
新しいシステムのフリラということで注目を浴びていますが、それ以上に技術的な側面から見ても非常に興味深い事が分かってきました。
発売は10月頃、価格はメーカーアナウンスが21800円の誰でも使えるフリラが登場しました。
まずは技術的な仕様から
◆準拠規格
ARIB規格STD-T99 付録2
◆電波形式
F1E、F1D
◆変調方式
デジタル4値FSK
◆出力
500mW
◆周波数範囲
142.934375-142.984.75MHZ / 146.934375-146.984375MHZ
◆チャンネル数
18チャンネル
◆通信方式
単信・単向・同報方式
◆動作温度範囲
-20~+50°C
◆AF出力
0.5W以上(外部SP:8Ω時)
◆消費電力
600mA以下
◆寸法
55×101.5×23mm
◆重量
約110g
誰でも、何にでも使えます
デジ小は地域コミュニティ無線とも表現されることがありますが、使用用途は地域コミュニティだけではなく制限はありません。
地域コミュニティはもちろん、家族や仕事で使って問題ありません。
フリラのような、不特定の方と趣味の交信を楽しむ使い方をしても法的に問題が発生するということもないので、安心してフリラのシステムとして導入することができます。
IC-DRC1のココが気になる!
◆どこまでライセンスフリーなのか?
フリラと呼ぶ場合は免許や資格がなくても使える無線システムということが大前提ですが、IC-DRC1はどこまでライセンスフリーなのかわかりました。
アマチュア局のように無線局の免許や、デジ簡のような無線機の登録は必要ありません。
販売店で購入したあと自宅までの帰り道で開梱して無線機から電波を発射して交信することもできる、特小のような無線機です。
登録が必要なく使えるので、電波使用料を支払う義務も発生しません。
◆相手局のGSP位置情報を取得可能
IC-DRC1で採用されているARIBのSTD-T99はもともと、動物の位置情報を確認するシステムとして策定が進められてきたようなのでGPSでの位置情報の送信は必須条件となっています。
ある程度の仕様が固まってきたときに総務省から要望でさらに高度化させて、一般の方でもすぐに使えるような無線システムへと規格が進化して、最終的にARIB STD-T99付録2という規格になったようです。
ARIB STD-T99は150MHz帯を使用することで策定が進められていたので、実際の周波数は142MHZや146MHZを使用しているにもかかわらずデジ小は150MHz帯の無線システムと表現されることもあるようです。
◆FMラジオ内蔵
本体にある「FM」というボタンを押すとFM放送を聴くことができます。
最近では中波AMラジオ局がFMで補完放送を行っているので、情報収集には便利なツールとなりそうです。
◆待望のUSB充電対応
一部の機種ではありましたが、今までは色々な無線機で「USB充電できたらいいのに…」という声を聴くことがありましたが、IC-DRC1ではUSB充電を可能にしました。
多くのメーカーの製品がUSB充電を採用しなかったのは、充電しながら無線機を送信することが懸念されるという理由からでしたが、最近では携帯電話の普及から充電しながら使用できないという認識が広がってきたことから採用に踏み切ったと思われます。
今の時代ではありがたい実用的な機能ですね。
◆パソコンで位置表示が可能
IC-DRC1をパソコンに接続してソフトを起動させると、相手局の位置情報を地図上に表示することができるようになりました。
専用ソフトはRS-DRC1という製品でアイコムのwebページからダウンロードして使用することができます。
公開時期は未定のようですが、製品の発売に合わせて公開されるのではないと思われます。
RS-DRC1の動作としては、IC-DSC1をパソコンで使用するためのドライバーと位置情報を地図にプロットするための位置情報の処理と地図の表示を担当していると思われます。
APIやSDKなどの公開については「わからない」ということでしたが、IC-DRC1からのGPS情報はMNEAが採用されている可能性が高いので、サードパーティーや個人などでのソフト公開にも期待が持てます。
◆外部アンテナが使用できる
これが一番の魅力だと思いますが、IC-DRC1はアンテナの取り外しが可能です。
アンテナコネクターはSMAコネクターを採用しているので、同軸ケーブルを接続して外部のモービルアンテナや固定アンテナなどに接続できるようになっています。
デジ簡のハンディーホイップアンテナでフリラの方に定評がある、某アンテナメーカー関係者からはデジ小のアンテナ開発に着手したという情報が入ってきました。
ちなみにアイコムからは2種類の長さが違うホイップアンテナが発表されるようです。
◆外部マイク端子は2ピン
フリラの方には気になるスピーカーマイク端子は2ピンタイプが採用されています。
サードパーティー製のマイクも使えるので、お気に入りのスピーカーマイクを使うことができます。
◆チャンネルは18ch
IC-DRC1は運用チャンネルが18chあります。
無線機の表示では1chから表示され、△ボタンを押すたびにチャンネルが17chまでカウントアップされ、最後の18ch目が「呼出し」と表示されます。
そんなわけで、デジ小では18chがコールチャンネルのようです。
◆独自コーデック採用
IC-DRC1ではアイコムが開発した独自コーデックが採用されました。
▲写真の本体に接続されているアンテナは「長いほう」のアンテナ、「短いほう」はこれよりも感覚的に5cmほど短いように思いました。はじめからアンテナが2本付属しているか、どちらかが別売になるかは不明です。
デジ小は自社開発コーデックの採用で戦略的な新製品に
IC-DRC1で採用した音声符号化方式(コーデック)がTOKUDER®というものです。
表記はTOKUDERで読み方は「トクダー」となります。
TOKUDERはアイコムが独自開発したコーデック、IC-DRC1の中核となる技術でもあります。
TOKUDERの名称は、アイコム株式会社の創業者である代表取締役会長の井上徳造氏の「トクゾウ」の名前に因んでいるとか、いないとか…、ということですが、編集部としてはもちろん、因んでいるんだろうなと考えています。(仕様書は入手していないので、デジ小で使用できるコーデックがTOKUDERのみか、さらに違うコーデックが使用できるのかは現時点では不明です)
このTOKUDERを採用した理由なんですがいくつか考えられます。
デジ簡ではAMBEが業界標準として定着してきました。
デジ簡で使用できるコーデックは、俗にいうアルインコ方式の「RALCWI」と「AMBE」の二つですが、アルインコ方式は新製品の発表も最近ではないようで、デジ簡の新製品が発売されてもAMBE方式のみとなっているようです。
編集部としてはアルインコのデジ簡はAMBE方式のみへと舵を切ったような印象を受けます。
AMBE方式があるのになぜアルインコは独自方式の無線機もAMBEタイプと併せてリリースを決めたかというとズバリ製造コストだと考えています。
自社で開発したコーデックを使用するのであれば、他社からチップを購入したり特許使用料を支払うこともないので、AMBE方式の無線機よりも比較的部品代が安く、製品を安価に製造でき利幅も大きくなります。
アイコムに置き換えて、IC-DRC1の存在意義を考えてみると、企業努力でARIB STD-T99に独自コーデックを採用させたということが一番の成果です。
いまのところ、他社がデジ小を製造するためにはアイコムからTOKUDERチップの購入とパテント使用料を支払うことが求められると思うので、製造コストをアイコムと同じレベルまで抑えることができません。
デジ簡ではアイコムはデジタルボイスシステム社からAMBEチップを購入していたので、キモとなる部品を他社に依存するという、なんとも歯がゆい状況でしたが、デジ小では一転して、パーツを開発する側になりました。
これによってデジ小のマーケットはアイコムが独占するということも可能な状況が作り出されたのです。
そこへ畳みかけるように設定されたIC-DRC1の価格にも注目が集まっています。
メーカーからのアナウンスでは1台21800円とのことなので、販売店との交渉次第ではさらに安く購入することも可能ではないでしょうか。
多分ですが、発売時には、市場独占の野望をかなえるためにも販売戦略を練ってロケットスタートを決めたいと考えてると思うので、アイコムの動向から目を離せないですね。
▲ちなみにこれがAMBE方式の無線機に使用される、デジタルボイスシステム社のAMBEチップ。AMBEを採用した世界中の無線機で使用されています。AMBEコーデックはケンウッドが一部のパテントを持っているといわれています。
他社の動向も気になりますね
アイコムはIC-DRC1の発表で他社にデジ小のマーケットでは先行することができましたが、アイコム以外の他社からの無線機の発表はどうなるんでしょうか。
他社も開発を進めていると思われますが、やはり問題となるのがコーデックを司るチップの存在です。
こればかりはアイコムから購入するしかないので、販売価格をアイコムにゆだねるという状況になってしまいます。
そうなるとチップの価格もアイコムの言い値ですし、チップの購入個数から製造する台数も容易に想像できます。
これがまさしくアイコムの一番のメリットでもあり野心的な無線機メーカーとしての戦略だったりするので、他社からの発売はアイコムの動向を判断してということで、少し時間をかけて発売と思われます。
しかしケンウッドはアマチュア無線機でD-STARを採用しているため、アイコムとは技術的な交流がすでにあるので、IC-DRC1の次にデジ小が発表されるのであればケンウッドからではないかと想像しています。
IC-DRC1がアマチュア無線家のゆりかごになれば
昔のフリラといえばCBのみでしたが、CBから無線の世界に入ってきた少年たちの多くがアマチュア無線にステップアップしていきました。
最近のフリラはCBはもちろんのこと、特小やデジ簡などシステムも複数あって、電波の飛び方も様々です。
アマチュア無線のようにフリラも運用周波数を選べる時代になりました。
これからデジ小からフリラを始めたフリラの方が、アマチュア無線にステップアップしたいと考えた時に144MH帯からアマチュア無線を開局する可能性が高いことも考えられます。
メーカーとしてはビジネスチャンスを作るきっかけにもなります。
事実、アマチュア無線機メーカー各社はフリラの存在を最近になって重視するようになってきました。
また、デジ小は夏場などは強力なEsが発生した場合、予想外の遠距離の局と交信できるチャンスがあります。
今まではEsというとフリラではCB(市民ラジオ)だけの魅力でしたが、これからはIC-DRC1を使用すればVHFでもEsを手軽に体験できるようになります。
高価なCB機ではなくて安価な無線機もEsを楽しめるようになるのはうれしいです。短波帯の周波数よりも難易度は高めですが、その分だけ交信できた時の喜びもひとしおだと思います。
魅力いっぱいの140MHz帯を使用したデジ小のIC-DRC1はフリラ入門者にも最適ですし、アマチュア無線家からも注目されるであろう無線機になっています。
フリラとしてのIC-DRC1の楽しみ方とは
フリラの新システムとして期待が持てるデジ小ですが、どうやって楽しむかということを考えてみます。
もちろん通常の交信で楽しむことができますし、夏場のEsによる電離層反射での遠距離交信なども楽しめます。
更に外部アンテナを使用すればモービル運用や、ご自宅などでの固定機としての運用なども可能となります。
移動運用の際は高性能アンテナでサービスエリアを広げることも可能となります。
使用できるアンテナの性能などは、現時点ではまだ判明していませんが、デジ簡と同様に無線機の技適の範囲で使用できるアンテナの種類が指定されていると思われます。
あとはGPSデータを使用した交信距離の算出です。
通信の相手方に時局のGSPでの位置情報を送信できるようなので、正確にどれだけの距離で交信できたかが後で調べることができるというものです。
デジ小で交信した場合は相手方の位置情報をメモしておいた方がよさそうです。
以上でIC-DRC1のわかったことをザっとまとめてご報告させていただきましたが、今後新たなことが分かり次第、随時記事化してお届けできればと考えております。